
2026年2月末に始まった米・イスラエルによるイラン攻撃以降、株式市場では「原油高メリット銘柄」が一気にテーマ株の主役に躍り出ました。ホルムズ海峡が事実上の封鎖状態となったことで、WTI原油先物は3月27日時点でバレル99ドル台まで急騰。紛争勃発前と比べると約40%の上昇となっており、エネルギー関連株への強烈な資金流入が起きています。
INPEX(1605)や石油資源開発(1662)といった国内の石油開発会社だけでなく、タンカー運賃の高騰を背景に商船三井(9104)なども上場来高値を更新するなど、テーマの広がりも鮮明です。今回はこの局面をどう読むか、関連銘柄の構造・指標・投資視点をまとめていきます。
なぜ直近1ヶ月で盛り上がったのか
要因①:米・イスラエルによるイラン攻撃とホルムズ海峡問題
今回の相場のトリガーは、米国・イスラエルがイランのエネルギーインフラに対して攻撃を開始したことです。イランはこれに対抗し、ホルムズ海峡の通航制限を事実上強制。世界のエネルギーの約5分の1が通過するこの海峡が機能不全に陥ったことで、原油の供給不安が一気に高まりました。
- ホルムズ海峡の封鎖状態により、中東からの原油タンカーが大幅迂回を余儀なくされる
- WTI原油は紛争開始以来40%以上上昇し、3月27日に99ドル台を回復
- トランプ大統領はイランへの攻撃期限を4月6日まで延長しており、緊張はなお継続中
ゴールドマン・サックスは2026年のブレント価格が4月末までに平均110ドルで推移するとの見通しを示しており、市場では原油高の長期化を織り込んだ動きが広がっています。
要因②:資源開発企業の利益感応度の高さ
石油関連企業の中でも「上流(探鉱・開発)」企業は、原油価格の影響を最も直接的に受ける構造です。例えばINPEXは、会社自身が開示している感応度データによると、原油価格が1バレル1ドル上昇するごとに当期利益が約55億円増加するとされています。現在の水準(99ドル前後)が長期化するだけで、通期業績への大幅な押し上げ効果が期待できます。
- INPEXは原油価格1ドル上昇で当期利益が約55億円増加(会社開示データ)
- 原油価格だけでなく、円安も追い風(1円円安で約30億円の利益増)
- 石油資源開発も国内外の油ガス田権益を保有し、原油・天然ガス価格と業績が連動
このような高い感応度が、原油価格上昇局面で資源開発株に真っ先に資金が流入する理由です。
要因③:タンカー運賃急騰で海運株にも物色拡大
原油高テーマは、エネルギー株だけにとどまらず海運株にも広がりました。ホルムズ海峡の封鎖により、タンカーは従来のルートが使えず、喜望峰回りという大幅な迂回を強いられます。航行距離が延びることで船腹が逼迫し、タンカー運賃が急騰。商船三井(9104)は3月19日に上場来高値7325円を更新するなど、海運株は原油高テーマの「隠れ恩恵株」として注目を集めました。
- タンカーの航行距離増加 → 船腹逼迫 → 運賃急騰 → 海運会社の収益増
- 商船三井(9104)は上場来高値更新、アクティビスト(エリオット)の保有表明も後押し
- 日本郵船(9101)、川崎汽船(9107)も連動した動き
要因④:代替エネルギー・石炭への関心も高まる
原油の供給不安が長期化する局面では、代替燃料としての石炭への注目も高まります。住石ホールディングス(1514)のような石炭関連銘柄も、エネルギー全体のテーマとして物色対象に入りやすくなります。また、こうした有事をきっかけに国内エネルギー政策の転換(原子力・再生可能エネルギーの推進など)が議論されるため、エネルギー全般の広いテーマとして捉えることも大切です。
対象銘柄の位置づけ(バリューチェーン整理)
原油関連銘柄は、エネルギー産業のバリューチェーンで整理すると投資機会が見えやすくなります。
(A)上流:資源開発(原油価格の影響が最も大きい)
- 1605 INPEX:国内最大の石油・天然ガス開発会社。アブダビ・オーストラリア・東南アジアなど世界20カ国以上でプロジェクトを展開。原油価格1ドル上昇で当期利益が約55億円増加するという高い感応度が特徴で、今回の原油高局面では最も直接的に恩恵を受ける銘柄です。2026年3月時点でPBRは約14年ぶりに1倍を超えており、市場の期待感の高まりが読み取れます。
- 1662 石油資源開発:国内唯一の独立系石油・ガス開発会社で、日本政府が筆頭株主。秋田・新潟・北海道などの国内油ガス田に加え、イラク・ガラフ油田など海外権益も保有します。石油やレアアース関連の探鉱技術にも強みを持ち、資源安全保障の観点からも存在感が高い銘柄です。また、カーボンニュートラル分野でのCCS(炭素回収・貯留)事業化も2030年代を目指して進行中です。原油価格との連動性が高く、今回のような有事局面では注目度が急上昇します。
(B)中流・下流:精製・販売
- 5020 ENEOS HD:国内最大の石油元売りグループ。JXTGエネルギー・東燃ゼネラル石油の統合で生まれた巨大企業で、ガソリン・軽油などの精製・販売を主力とします。上流企業と異なり、原油価格上昇が仕入コスト増にもつながるため、恩恵は「精製マージン」の改善によって変わります。値上げをガソリン価格に転嫁できるかどうかがカギで、足元では補助金制度の見直し議論も投資判断の材料になります。時価総額は約3.9兆円と大型株で、流動性が高く機関投資家にも売買しやすい銘柄です。
(C)代替エネルギー
- 1514 住石ホールディングス:石炭の採掘・販売を手がける国内では数少ない石炭関連銘柄。直接の原油関連ではありませんが、原油の供給不安が長引く局面では代替燃料として石炭需要が意識され、テーマ的に連動しやすい性質を持ちます。時価総額は約678億円と小型株のため、テーマ相場時は値動きが大きくなりやすい点に注意が必要です。
(D)海運(タンカー運賃連動)
- 9104 商船三井:ホルムズ海峡封鎖の「隠れ恩恵銘柄」として今回急浮上した銘柄。タンカー・LNG船・ドライバルク・コンテナ船など多様な船種を保有するが、今回はタンカーの運賃高騰が特に注目を集めました。3月19日に上場来高値7325円を更新しており、米アクティビストのエリオット・インベストメントが保有を公表したことも株高を後押し。有事相場で海運株が原油テーマに乗りやすいことを示した典型例です。
(E)商品連動
- 1671 WTI原油ETF:WTI原油先物価格に連動する円建て上場投資信託。企業業績ではなく原油価格そのものに乗りたい場合に使えるツールです。純資産は約407億円。ただし、先物の「ロールオーバーコスト」(期近から期先への乗り換えコスト)が発生するため、長期保有には注意が必要です。短期のトレード目的での活用に向いています。
このように「資源開発 → 精製・販売 → 代替資源 → 海運 → 商品連動」と、原油テーマは複数の層に広がっており、相場環境によってどの層に資金が集まるかが変わります。
指標比較:予想PER・PBR・時価総額(2026年3月時点)
原油関連銘柄は業種によって収益構造が大きく異なるため、バリュエーションは単純比較より「業種の特性」を踏まえて見ることが重要です。参考数値としてご活用ください。
| コード | 銘柄 | 予想PER | PBR | 時価総額 |
|---|---|---|---|---|
| 1605 | INPEX | 約17倍 | 約1.2倍 | 約6.2兆円 |
| 1662 | 石油資源開発 | ― | 約1.2倍 | 約6,846億円 |
| 5020 | ENEOS HD | 約29倍 | 約1.2倍 | 約3.9兆円 |
| 1514 | 住石ホールディングス | 約38倍 | 約1.8倍 | 約678億円 |
| 9104 | 商船三井 | 約12.6倍 | 約0.9倍 | 約2.5兆円 |
| 1671 | WTI原油ETF | ― | ― | ETF(純資産約407億円) |
指標の見方のポイント
- INPEXのPBR1倍超回復は約14年ぶり。原油高が続くほど業績の上ぶれ余地があり、割安感が継続しているとも見られます。
- ENEOSのPERが高めに見えるのは、精製マージン圧縮が続いていた期があり、収益の振れ幅が大きいためです。原油高が持続すれば収益改善で修正される可能性があります。
- 住石HDのPER・PBRが高いのは、石炭テーマの再評価期待が株価に先行して織り込まれているため。業績以上の期待値が相場に入っている点には注意が必要です。
- 石油資源開発のPERが表示されていないのは、四半期ベースで減益が続いているためですが、原油価格の高止まりが続けば業績改善が見込まれます。
投資家が注目すべきシナリオ
原油高テーマへの投資を考える際には、今後の複数シナリオを意識しておくことが重要です。
シナリオ①:ホルムズ海峡の封鎖状態が長期化
原油供給の制約が続き、100ドルを超える水準での高止まりが続くシナリオです。この場合、上流の資源開発株(INPEX・石油資源開発)が最も恩恵を受けやすく、商船三井などのタンカー株も運賃高騰が続く可能性があります。一方で、日本全体の製造業や輸送コストへの悪影響も大きく、マーケット全体は不安定になりやすい点に注意が必要です。
シナリオ②:停戦・外交解決による原油価格の急落
実際、3月9日には一時的な停戦期待から原油価格がWTIで15%超急落する場面もありました。こうした急反落のリスクは常に意識する必要があります。原油高テーマ株は地政学リスクが材料であるため、解決に向けた動きが出ると反動も大きくなります。
シナリオ③:日本のエネルギー政策転換
今回のような供給不安を契機に、高市政権下での国内エネルギー政策の見直し(原子力推進・LNG調達多様化・再エネ加速)が議論されています。これに連動して、原子力関連銘柄や再生可能エネルギー銘柄などが新たなテーマとして浮上する可能性もあります。有事の中でのエネルギー政策転換に関連した銘柄も合わせてウォッチしておくと投資機会が広がります。
まとめ
今回の米・イスラエルによるイラン攻撃とホルムズ海峡封鎖は、日本のエネルギー安全保障に直接的な影響を与える出来事です。WTI原油価格は99ドル台(2026年3月27日時点)まで上昇しており、資源調達の大半を輸入に依存する日本にとってはコスト増加のリスクが非常に大きい局面となっています。
その一方で、株式市場では以下の銘柄群に恩恵が出ています。
- 原油価格直結型:INPEX(1605)、石油資源開発(1662)
- 精製・販売型:ENEOS HD(5020)
- 海運(タンカー運賃高騰):商船三井(9104)
- 代替エネルギー:住石ホールディングス(1514)
- 商品連動:WTI原油ETF(1671)
エネルギー関連銘柄は平時には注目度が低いですが、今回のような地政学的有事では軍事関連と並んで最も動きが大きくなるセクターの一つです。ただし、停戦報道などで急反落するリスクも常に隣り合わせ。テーマ株特有の値動きの激しさを理解した上で、ポジションサイズのコントロールをしっかり行いながら臨むことが大切です。また、今回の有事を契機に日本のエネルギー政策が変わる可能性もあるため、原子力や再エネ関連の動向も合わせてウォッチしていきましょう。